吸い込むように、眼差し
trace his scent

 私は普段、気の置けない人たちや恋人を「家族」として撮っています。人物そのものへの興味もありますが、肌で覆われた部分を飛び越えたその人の「領域」や「境界」についても興味があり、例えば、脱ぎ捨てられた衣服、飲み残し、ベッドのシーツについた皺など、人が写っていなくてもその人を思い出させるような事物を写真で集めています。なぜ興味があるのか正確にはわかりませんが、集めてきた写真の中に、私と被写体との距離感や関係性が仄かに、でも確かに出てくるからだと思います。そこには、言葉とか身振りとかでは伝わらない何かがきっと含まれており、そこから私と私を取り囲む事物との関係をつなぎ合わせることができる。だから私は写真を撮ります。 
本作では、早朝のまだ日が登りきらない時間にその人の部屋にあげてもらい夢現な状態で写真を撮らせてもらいました。まず、被写体の私的な空間、ほとんど寝ていることで無意識が立ち現れる私的な時間を撮影する行為そのものに、私と被写体の関係性をみることができます。それに加え、撮影した写真を暗室に持ち帰り、現像中に浮き上がってきたイメージと薬品の中で直接触れ合う行為には、私自身の中に潜む被写体へのどうしようもない欲望がしっかりと暴かれます。だから、私は写真それ自体だけではなく撮影や現像、被写体と関わる日常も作品の一部であると考えています。また、そのような写真を制作することで自己と他者の位置関係や思いもよらない欲望を観察することができます。もしかすると、写真によって観察されるのは被写体よりも撮影者自身なのかもしれません。